2010年10月4日月曜日

名前探しの放課後(辻村深月)

名前探しの放課後(上) (講談社文庫)名前探しの放課後(上) (講談社文庫)
辻村 深月

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辻村 深月

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「いつまでも読んでいたかった」とは、白河三兎「プールの底に眠る」の帯に寄せられた辻村深月の言葉だった。

それは確かに間違っていなかったが、彼女自身が書いたこの本もまた、ぼくにとっては「いつまでも読んでいたかった」本のひとつだ。

プールの底に眠る (講談社ノベルス)プールの底に眠る (講談社ノベルス)
白河 三兎

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舞台となるのは、とある地方都市。

やがて自殺するはずの、だけどそれが誰だかはわからない同級生。

彼(女)を救うために集まった高校生たちの物語が、秋から冬へと移り変わる季節とともに進行していく。


「誰が」自殺するのか。

デビュー作「冷たい校舎の時は止まる」と同様、その「誰か」を探すことが彼らに課された役割となる。そしてその謎は、最後まで物語と読者を引っ張っていく。

しかし、これ以上ストーリーに触れればどうしてもネタバレは避けられないので、深入りすることはやめておこう。

冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)
辻村 深月

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冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)
辻村 深月

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それにしても、この物語を「いつまでも読んでいたい」と何よりも思わせるのは、辻村深月の筆致が伝える空気のリアルな肌触りだ。

エスカレーターが途切れ、ガラス張りの壁の向こうに空が広がる。冷たい空気が顔を撫でて、季節はもう冬になるのだということを(中略)痛感する。
そろそろ日の入りが近い。屋上には夕闇が近づいていた。等間隔に並んだ照明ライトが、そういえばもう点灯し始めている。

顔を上げると、屋上の空はすっかり夜の色に沈もうとしていた。

屋上駐車場を照らす背の高いライトからの光が明るく眩いせいで、さっき(中略)興奮して眺めていた霊峰の姿はもうどれだけ望んでも暗すぎて見えない。

主人公たちが幾度となく集まるジャスコの屋上。

見下ろす風景。

その風の匂い。

高校時代、同じ季節に同じ風の匂いを知っていたような気がする。

練習を終えて外に出ると、11月中旬の町は冬に備えている匂いがした。夏に比べて、空気の密度が低い。

肌寒い空気と、

レストランの明かり。

友だちの笑顔の温もり。


この物語はミステリーに分類されるのかもしれないが、そのコアは決して謎解きではないし、世界を救うことでもない。

大事なことは、いっしょにいること。

同じ時間を、世界を、同じ空気を共有すること。

そして何かに向かっていっしょに歩くこと。

人生にはイベントが必要なんだって。取り組むべき目標。こなすべき課題。--簡単な気持ちで、バカみたいな楽しいことをたくさんしよう。

その中から生まれてくるいろんなことがいちばん大事なことなんだよと、そのいろんなことを描き出すことでこの物語は教えてくれているような気がする。